植物を用いた大気・土壌汚染のバイオモニタリング


概要
現在環境中には様々な化学汚染物質が溢れている。それは重金属であったり,PAHsであったり多種多様かつ様々な濃度範囲で人や生態系に毒性をもたらす物質群といえる。それら個々を全て定量したところで,物質同士が複雑に相互作用するため,トータルリスクを計り知ることはできない。むしろそれだけのコストと時間を要する定量作業は非効率といえる。近年,毒性物質のもたらす複合リスクを生体反応から評価しようと言う,バイオアッセイ手法が提唱されるようになってきており,OECDでもそのガイドラインが示されるようになってきている。しかしその適用先は水環境に限られており,大気や土壌を評価する手法は確立されていない。そこで,本題目では,大気汚染及びそれに伴う土壌汚染リスクを評価する手法として,植物を用いた新たなバイオモニタリング手法の開発評価をおこなっていく。(実験系)



◆ なぜこのような研究が必要なのか?
我々は自分達が接している沿道大気や,例えば煙草の副流煙などの総毒性を知っていると言えるのでしょうか?既存の研究では,沿道大気中のNOx濃度や副流煙中のPAHs濃度などが個々に報告されています。しかし,実際に測定されたデータと,それがどれ程人間健康にリスクをもたらすのか,といった所を繋ぐ研究は極めて手薄と言わざるを得ません。さらに,人間以外の動植物を含む生態系への影響は全く無視されてきたと言っても過言ではないでしょう。近年日本においても環境基準に生態系保全の概念を取り込んだ基準が設けられるようになってきました。世界各国がいち早くこのような取り組みをしていたのに比べ,日本における生態系への毒性リスクといった考え方は,極めて未熟で発展途上といえます。本課題はそのような世の中の流れを受けて,人間および生態系に対し様々な大気汚染物質がもたらすリスクを総合的に評価するための,新しく有効なツールを開発しようといった取り組みです。
◆ 今後の研究発展性は?(特に大学院進学を考えている学生さんへ)
世界的に見ても大気汚染のバイオモニタリングといった分野は極めて未発展であり,本課題の新規性は高いと言えます。また,主に大気汚染物質を対象と扱うことを考えていますが,例えば土壌診断手法として用いる,重金属の影響を見る,遺伝子レベルでの影響を把握する,といった研究発展の可能性も考えられます。また,対象とする空間としては,沿道,室内,また日本に留まらずバンコクなどで実証試験を行うことも考えられます。



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