環境システム研究室 2009年度 卒業論文題目案 本文へジャンプ
指導教員: 花木啓祐(教授)・ 栗栖聖(講師)・ 中谷隼(助教)


環境問題は1970年代に起こった公害問題のように、エンドオブパイプで有害物質の放出を食い止めれば済むといった単純な解決方法では、対応が不可能な複雑構造を持つようになってきている。地球温暖化の問題は次世代以降に対しもたらされるリスクであり、削減目標達成に対する現世代の対応意識は必ずしも高いとはいえない。そのため、意識を喚起し行動にまで結びつけるための有効な政策提案が必要といえる。複雑な現代の環境問題を読み解き、また解決法を提示するためには、従来の型にはまらず、新しい発想により物事を包括的に捉える研究が必要とされている。

環境システム研究室では、そのような社会的渇望に答えるための研究として、今年度は以下の大きく3分野に関する題目を提示するが、必ずしもこれらに拘る必要はない。学生からの自主的なテーマ提案の相談にも応ずる。研究を熱くかつ冷静に、自主的かつ貪欲に遂行できる学生を大いに歓迎する。


【1】 低炭素社会の実現に関する研究(非実験)


【2】 環境配慮型行動を促進するための研究(非実験)


【3】 プラスチック製容器包装の3Rに関する研究(非実験)




【1】 低炭素社会の実現に関する研究(非実験)


世界全体として約50%、先進国として70〜80%におよぶ二酸化炭素の排出削減を2050年を目標にして実現しなければならないと言うことについて国際的にも共通認識が広がっている。しかしその一方で、どのようにしてその低炭素社会を形成するかと言うことについては、どの国もまだ明確な道筋を示し得ていない。人間活動が集中している都市の場は二酸化炭素排出の大きい源になっていると同時に削減の可能性も大きい。さまざまなアプローチが考えられるが、以下のようなテーマが可能である。


a) 低炭素都市の誘導とその効果に関する研究

都市計画の場において、この1〜2年低炭素都市を目指す必要性が急速に浮上してきたが、実際にどのような政策が有用であるか、定量的な解析はなされていない。土地利用の誘導による戸建て住宅から集合住宅への転換、都心居住の促進の効果などを評価する。あるいは都市内で発生するバイオマスの有効活用による二酸化炭素排出削減効果を評価する。


b) 都市と後背地の二酸化炭素排出量の国際比較

都市における二酸化炭素の排出量はその都市の活動状況により異なるが、国によっても異なる。これらを比較することによって、それぞれの都市における二酸化炭素排出削減の可能性を明らかにする。その際、都市の中心部(東京では23区)のみならず、後背地を含む地域(東京だと1都6県)の両方を取り上げる。後者の場合には地域内に工業地帯、また森林による九州も含まれる。現在、キャンベラ都市圏、コペンハーゲン都市圏と東京圏との比較研究を国際共同研究として開始している。




【2】 環境配慮型行動を促進するための研究(非実験)


省エネやリサイクル、廃棄物の発生抑制、公共交通機関の利用、環境に優しい商品の選択など、様々な環境配慮型行動の促進が、持続可能な社会形成のために求められている。しかしながら、その多くは、人々の日常の生活行動様式に大きく依存することから、実効性を伴う施策を展開することには困難を伴う。
本題目案では、人々の行動の制約となっている因子を明らかとし、行動を促進していく施策提案へと結びつけることを目的とする。本テーマに則し、今年度は以下のような題目案が考えられる。


a) 環境配慮型行動支援ツールの構築

人々の行動を促進していくためには、行動変容に伴って、どれ程の環境負荷削減が可能かを、目に見える形で提示することが有効と考えられる。
本題目案では、ライフサイクルアセスメントによる二酸化炭素削減量の解析や、実際にマーケットに出回る商品調査などを通して、住民行動を支援するマニュアルや、二酸化炭素算定シートなどのツールを構築することを目標とした研究を行う。


b) 環境配慮型行動の心理学的支配因子の構造化

いくつか(もしくはある一つ)の環境配慮型行動を取り上げ、行動の心理的制約となっている因子をモデル化する。例えば、リサイクルには社会規範のような外的プレッシャーが行動に大きく影響する一方、廃棄物の発生抑制では、行動の難易度の認知が大きいとか、ある行動では、コストの制約が主だ、といったように、重要となる因子が抽出できれば、それに対応した、施策を提案することが可能になると考えられる。手法には(オンライン)アンケート及び、統計学的解析手法を適用し、定量的な議論を行っていく。




【3】 プラスチック製容器包装の3Rに関する研究(非実験)


地球温暖化や資源枯渇といった問題を背景として、プラスチック製容器包装の3R(リデュース・リユース・リサイクル)が推進されているが、ライフサイクルの観点から、さらに環境負荷や資源消費を低減できるシステムを目指す必要がある。また、プラスチック製容器包装のライフサイクルには、製造・利用事業者、住民、市町村、リサイクル事業者など様々な利害関係者が関わるため、適正なコストや作業の負担についても十分な配慮が求められる。


a) 住民の負担を考慮した材料リサイクルの総合評価

プラスチック製容器包装の材料リサイクルにおいては、異物の混入や汚れ、材料リサイクルに適さない樹脂種類などの要因により、リサイクルプロセスの歩留の低下や作業環境の悪化、再生樹脂の品質の低下などが問題となっている。こうした要因を排除することにより、環境負荷や資源消費、コストを削減しうる社会的価値の高いリサイクルが実現すると考えられるが、そのためには住民に対して分別の負担を求める必要がある。
本題目案では、樹脂種類別や形状別といった、高い社会的価値を実現しうるプラスチック製容器包装の分別区分を提案し、住民の負担を考慮した総合評価を行うことで、望ましい材料リサイクルのあり方について検討する。


b) 環境負荷・資源消費を低減させるインセンティブの解析

プラスチック製容器包装のライフサイクルを、より環境負荷や資源消費を低減できるシステムとするためには、各利害関係者の行動を変化させる必要があることは言うまでもないが、そのためには、経済的なインセンティブや効果的な情報提供を含めた各利害関係者に対する何らかの動機付けが求められる。
本題目案では、現状におけるプラスチック製容器包装の各利害関係者のコスト負担の構造を明らかにするとともに、環境負荷・資源消費を低減させるために各利害関係者に付与するべきインセンティブについて検討し、それによる効果を試算する。